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※たくさんモブいます。

夏休み前、最後の強敵。もうすぐ考査期間がやってくる。テスト範囲の授業を終えた四限目は自習となり、勉強なんてせず月バスを読み耽る三井は、相変わらずバスケで頭がいっぱいみたいだ。
これは、今がチャンス。

「三井って彼女いるの?」
「あ?」
「いるの?」
「・・・いねーけど」

なんでそんなこと聞くんだ。じっとりとした視線には、そんな意味が含まれていそうだ。そりゃあ、二年の女の子に聞いて欲しいって頼まれたからだ、なんて言ったら、三井は踊り狂うだろう。そうしてスキップしながら宮城くんあたりに自慢しに行くかもしれない。・・・なんかムカつくから、言わない。

「じゃあ好きな人は?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「いいから」
「言わねーよ」

ははーん、こりゃあいるなあ。なんて、いつもなら言える軽口が、喉元でつかえる。早く何か言わなきゃ、三井に変に思われる。

「・・・お前、この前からなんか変だぞ」
「へ、あ、どんな?」

探るようにわたしを見つめる三井から視線を逸らせず、負けじと見つめ返す。だめだ、ここで目を逸らしたらきっと問い詰められる。そう思ったわたしは、突き刺さるような視線を正面から受け止めることに決めた。

「・・・・・・いや、やっぱいい」

しばらくして、諦めたように三井が先に目を逸らしたので、なんとか事なきを得た。全然納得してない顔をしていたけれど、とりあえず乗り切ることができたので良しとする。

移動教室の帰り。視聴覚室に忘れ物をしたわたしは、友達と別れ一人廊下を歩いていた。「すみません」という小さな呼びかけに振り返れば、綺麗な女の子が不安げにわたしを見つめている。話を聞けば、三井のことを好きになってしまったという。バレー部の女の子で、部活中に足を挫いたところを三井に保健室に連れていってもらったとか、なんとか。女の子の熱意とは反対に、わたしはなんだかぼんやりとその話を聞いていた。

「っつーか、」
「ん?」
「お前も、佐藤となに話してたんだよ」
「・・・あー」

思わず、うわ、という顔をしてしまった。ブーメランとはまさにこのこと。今度は三井が話の主導権を握り、真っ直ぐにわたしを見つめる。な、なんでそのこと。佐藤くんとは、この前までサッカー部のキャプテンだった人で、県予選で敗退し、部活を引退したという。トイレの帰り、ぷらぷらと廊下を歩いていたら、良かったら一緒に帰れないか、と突然声をかけられたのだ。テスト前で勉強したいから、とか適当な理由で断ったけれど、そこを三井に見られていたとは。なんと言えばいいのだろう。実際には何もなかったわけだし・・・。

「特に、何も」
「あ?言えねーようなことかよ」
「み、三井には、関係ない」
「・・・まあ、たしかにな」

悪かったな、変なこと聞いて。三井はまた月バスに視線を戻し、パラパラとページを捲っていく。違う、そんなことを言いたいんじゃなくて。何もないということを伝えたかっただけなのに。弁明もできず、ぷつりと会話は終わってしまった。

この前から、わたしは変だ。いつもだったら言える軽口も、三井を前にすると素直でいることすら難しい。わたし、今までどうやって三井と話していたんだっけ。

「あの、三井」

視線だけをわたしに寄越した三井は、どこか冷たい目をしている。自習の騒がしい教室とは裏腹に、わたしたちの間はとても静かだ。

「関係ないとか言って、ごめん」
「まあ、事実だし」
「友達なのにあんな言い方して、ごめん」
「・・・・・・」

ただ、一緒に帰ろうと言われただけなの。断ったから、話すようなことは何もなくて。だけど、あんな嫌な言い方して、ごめん。矢継ぎ早に言うわたしを、三井はただ黙って見つめている。何をこんなに必死になって話しているのだろう。三井はきっと、ふうん、くらいにしか思わないのに。

「ふうん」

ほら、やっぱりだ。

「まあ、オレも、さっきちゃんと答えなかったから。おあいこだな」
「え?」

さっき、って何、なんのことだっけ。わたしは三井に、何を聞いたんだっけ。

「いるよ、好きなヤツ」




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